2020年、大きな変化があった領域の一つが「食料品通販」である。
パンデミックでは他者との接触を避けたいが、食料は必要だ。多くの地域でスーパーマーケットでの「まとめ買い」が進んだが、ネット通販で買えるならなお良い。
そもそも食料品販売は、インターネット通販の普及がなかなか進まなかったジャンルだ。食料品の貯蔵は容易ではない。仕入れから配送までに許される期間は限られるし、保存温度も厳格に管理しなくてはならない。
そんな難しい領域に2000年からチャレンジしてきたのが英国の「Ocado(オカド)」である。
彼らは「オンライン限定」の食料品スーパーマーケットを展開し、世界でも稀に見る食料品スーパーの運営ノウハウを培った。近年ではテクノロジーの外販にも注力し、国内外でさらなる成長を追求している。
食料品のネット販売は、まだ若い市場だ。その中で代表的プレイヤーの一つであるOcadoとはどんな会社なのか紐解いてみよう。
Ocadoの創業者、ティム・スタイナー(Tim Steiner)は1969年生まれ。
曽祖父は「Steiner Leisure」の創業者。リゾート地でのクルーズ船を運航する企業だ。母親も美容ブランド「Elemis」の創業者と、事業家の多い家庭で育った。
マンチェスター大で経済を学んだあと、1992年にゴールドマン・サックスに入社。そこで8年間、債券トレーダーとして働き、ロンドンと香港、ニューヨークを渡り歩く。曰く、「あまりに簡単すぎる」仕事だったそうだ。
そして2000年にラストマイル・ソリューションズ(後のOcado)を創業。英国の老舗小売グループ「ジョンルイス・パートナーシップ」傘下の「Waitrose」との提携が決まり、すぐに株式の40%を握られる。
当時はインターネットバブルが萎み始めたタイミング。スタイナーはゴールドマンでのキャリアがうまく行っていたので、「一年半やってうまく行かなければ戻ろう」くらいのつもりだったという。
米国のITバブルでは、食料品ECと言えば大失敗ジャンルの筆頭だった。それが「Webvan」である。
Webvanは1999年よりサンフランシスコで食料品ECを開始し、調達した巨額資本を買収やマーケティングに費やし、積極攻勢を仕掛ける。同年末までにはナスダックに上場。
しかし、それまでにあげた売上は39.5万ドルのみ。2001年には8億ドルを超える損失を計上して破産、2,000人の従業員が職を失った。