今回取り上げるのは、6月22日に新規上場を果たした北海道のIoT企業「エコモット」です。
(HPより)
創業まで
エコモットの創業者は入沢卓也氏。1980年、札幌市生まれ。
1998年3月に札幌平岸高校を卒業後、映画監督を目指しアメリカに渡っています。
2002年3月にワシントン州「ハイライン・コミュニティカレッジ」を卒業。
帰国後、初音ミクを生み出したクリプトン・フューチャー・メディアに入社します。
映画やゲームで使う銃声、恐竜の鳴き声などを、携帯電話端末に着信メロディーとして配信するといった、コンテンツビジネスを手がけていたそうです。
ユーザーの顔が直接見えるリアルなビジネスがしたいと考えるようになり、2007年1月に同社を退職し、エコモットを設立しています。
雪国ならではの悩み
札幌の冬場は積雪が多く、ロードヒーティングの管理が難しいという声が多かったそうです。
当時、ロードヒーティングの燃料代を節約するために車で何度も現場に赴き電源を管理する、というのが一般的でした。
これを、携帯電話の回線を使って管理できればというアイデアのもと開発されたのが「ゆりもっと」です。
その後も、IoTに関する事業を立て続けに展開しています。
2016年にはアマゾンウェブサービスのパートナープログラム「AWS パートナーネットワーク」のテクノロジーパートナーに加入(こちらより)。
2017年6月には札証アンビシャスに上場しています。
それでは業績推移から見ていきましょう。
2018/3期の売上は16億2566万円で、2016/3期(7億3898万円)と比べると2年で2倍以上に増収しています。
IoT分野は、2020年には国内の市場規模が1兆3,800億円に膨らむと言われる注目領域ですが、IoT事業だけで上場している企業はまだほとんどありません。
エコモットはどのようにして事業規模を急激に拡大してきたのでしょうか?
今回のエントリでは、エコモットの事業内容について一つずつチェックしていきたいと思います。
まず初めに、「IoT(Internet of Things)」とは何なのかについてざっくりとおさらいしたいと思います。
IoTは「モノのインターネット」という名前の通り、「あらゆるモノがインターネットにつながることで可能となる新たな産業分野」全般のことを指します。
従来、ネットにつながるものといえば、パソコンと携帯電話が代表的です。
インターネットはパソコンをつなぐことで進化してきましたし、現代の携帯電話(スマホ)はもはや小さなコンピュータですから、当然と言えば当然のこと。
でも、例えば「窓ガラス」や「ドア」、「マグカップ」、「植木鉢」などがインターネットにつながったらどんなことができるでしょうか?
IoTによって実現できることとして代表的なのは、「モノの状態を知ること」「モノを遠隔で(インターネットを通じて)操作すること」の二つです。
つまり、外出時にもドアの開閉状況をチェックしたり、鍵を開け閉めしたり、植木が乾燥したらスマートフォンに通知を送る、などのことができるようになります。
このように、世の中に存在する何億という数の「モノ」がインターネットに接続することにより、今まで不可能だったようなことが実現できるようになる。
これこそが、IoTが秘めている将来への可能性です。
さて、それではエコモットの事業内容について見ていきましょう。
現時点での事業セグメントは大きく4つあり、それぞれが一つの事業に対応しています。
①コンストラクションソリューション「現場ロイド」
(ホームページ)
「現場ロイド」は、土木工事現場などで使われる「建設現場の見える化」サービスです。
カメラや計測機器、車両検知、安全対策機器など、工事現場で使われる機器を数多く取り扱っており、レンタルすることが可能。
これらの機器の利用ケースは多岐にわたりますが、例えば次のような使い方があります。
・赤外線車両検知システムを使い、工事車両運転手に一般車両や通行人の存在を通知
・電光掲示板やパトランプと組み合わせ、風向風速を見える化し、異常を検知
・転倒しやすい保安用品にセンサーを取り付け、倒れた際に通知メールを送る
②GPSソリューション「Pdrive」
(ホームページ)
運行状況をリアルタイムで遠隔監視することができるドライブレコーダーを提供しています。
各レコーダーはLTEモジュールを搭載しており、管理画面から複数車両の位置をリアルタイムで把握することが可能。
万一の事故に備えてSDカードに録画するのは通常のドライブレコーダーと同じ。
ドライバーの運転データをクラウド上で集計し、安全運転ランキングを作ったり、その他にも様々な分析が可能となっています。
シガーソケットにさすだけで電源を確保することができ、設置がとても簡単なのも特徴。
③モニタリングソリューション「ゆりもっと」
三つ目は、融雪システムの遠隔監視ソリューション「ゆりもっと」です。
冬の雪国ではハンパないくらいに雪が積もります。
雪を溶かすには灯油ボイラーを焚いて道路を温める(ロードヒーティング)ことが一般的ですが、燃料代をなるべく節約しなくては、費用が大変なことになってしまいます。
従来のロードヒーティングは、降雪センサーの信号を受けて自動で電源がON/OFFになりますが、雨や少量の雪に反応してしまい、エネルギーを無駄にしてしまうケースが少なくありません。
(ゆりもっと)
「ゆりもっと」を導入すると、降雪センサーからの信号はゆりもっとの専用端末に送られます。
そして、エコモットの運営する監視センターにいる融雪監視担当者が「本当にロードヒーティングを動かすべきか」を遠隔で判断し、スイッチを入れることができます。
価格は土地の大きさや形状によるとのことですが、セグメント売上は1億7300万円、契約件数は1800件あることから客単価は年約10万円と概算できます。
④ インテグレーションソリューション「FASTIO」
4つめの事業は、IoTを素早くビジネスに導入できるようにする「FASTIO(FAST + IoT)」というサービスです。
(FASTIO)
IoTを導入するためには、「センサーをインターネットにつなぐこと」がまず必要となりますが、現時点でその選択肢(既製品)はそれほど多くありません。
FASTIOは、産業利用を想定して作られた高精度なセンサーのつなぎ込みについて、2,000種類以上の実績があり、特別な設定や開発をせずに利用できるセンサーを数多く用意しています。
このように、センサーからゲートウェイ端末、ネットワーク、アプリケーションなど、IoTの実装に必要なものを一貫して提供するサービスが「FASTIO」です。
それでは、4つの事業の売上を見てみましょう。
売上高16億2500万円のうち、売上が最も大きいのは「クラウド接続ドライブレコーダー」のGPSソリューション(Pdrive)。6億4735万円の売上をあげています。
続いて、現場ロイド(コンストラクションソリューション)が6億2153万円。上記二つで全体の8割を占めています。
融雪サービス「ゆりもっと」を展開するモニタリングソリューションは1億7394万円、インテグレーションソリューションは1億8282万円の売上。
この2年で特に急拡大したのは「現場ロイド」であることが分かります。
なお、現時点でエコモットは主要顧客3社で売上の62.4%を占めており、各事業の顧客はほとんど1社ずつになっているのではないかと思われます。
続いて、財政状態についてチェックしてみます。
総資産は12億7500万円あり、そのうち現預金は2億4800万円。
売掛金は4億2672万円と大きくなっています。
この資産のための資金をどのように集めてきたのでしょうか。
バランスシートの右側を見ていきます。
最も大きいのは借入金と社債を足した「有利子負債」です。
2017年3月末の3億2300万円から、2018年3月末には5億7800万円まで膨らんでいます。
利益剰余金は2億3500万円まで増えていますが、2018年3月末時点で、バランスシートの45%を有利子負債が占めていることになります。
営業キャッシュフローは2期連続でマイナスです。
内訳をみると、売上債権が増加していることが理由として大きいようです。
売上債権とは、売掛金や受取手形といった未収の販売代金のことです。
このキャッシュは後で入ってくるはずですが、キャッシュフロー上はあまり有利な資金繰りではないことが分かります。
また、財務キャッシュフローは2018/3に3億4600万円のプラス。これは長期借入金3億円を追加したためですね。
2018年6月24日時点での時価総額は50億円ほど。
売上が20億円もなく、営業利益も1.3億円であることを考えるとかなり高い評価ですが、今後の展望はどうなっているのでしょうか。
まず、市場環境はきわめて明るい状況です。
経産省は、日本産業発展の「第2ステージ」の鍵として「第4次産業革命技術(IoT、ビッグデータ、AI、ロボット)の 社会実装」を挙げています。
市場の成長性も高く、2022年には12.5兆円規模となることが予想されています。
そんな中で、エコモットは「コンストラクションソリューション(現場ロイド)」「GPSソリューション(Pdrive)」という二つの中核事業を展開しています。
しかし、公共事業関係費は1998年以降右肩下がりとなっており、2013年に底を打ったものの、日本の社会情勢をみても今後大きく拡大するとはあまり思えません。
一方、「GPSソリューション」を取り巻く市場環境は良好です。
超具体的ですが、「クラウド型車両管理・勤怠管理システム」の市場は2022年には利用台数168万台、市場規模は511億円に なると見込まれており、2016年の4倍近くにまで膨らむ見通しです。
また、IoTを可能にする「インターネット」それ自体も今後、まだまだ発展していくことが予想されています。
「5G」の回線数は、2020年からの5年で11億回線にまで拡大する見込みで、モバイル全体のおよそ3割に達する見込み。
4GやLTEと比べても数十倍(環境による)の通信速度といわれる5Gが普及すれば、IoT領域にも大きなインパクトがあることは間違いありません。
このように、IoTという領域自体はどこをどう考えても明るい話題しかありません。
そんな中、エコモットは自社の強みを「業界における長期的な知見」としています。
IoTを「つなぐ」ことがどれだけ大変なことかにわかには想像できませんが、そこの「経験」が大きな強みであるとしています。
しかし逆にいうと、「つなぐ力」「構築力」が要らなくなるような世の中になってしまったら、エコモットの優位性は失われてしまうのかもしれません。
エコモットは、10年後には「日本を代表するIoTカンパニー」へと成長する目標を掲げています。
そのために今後3年、飛躍的成長に向けた戦略的強化期間をもうけるとのこと。
具体的には、現在の中核事業である「コンストラクション」「GPSソリューション」の二つを安定成長させつつ、新規サービスを開発していくとのこと。
また、営業・開発など人員体制を強化することもかかげています。組織戦略ですね。
長期的に「IoT」という分野がどうなっていくのか、なかなか現時点で想像できる部分は限られてしまいます。
そんな中で、いち早く上場したIoT企業「エコモット」がどのように成長するのか、これからもチェックしていきたいと思います。