現代のビジネスパーソンにとって、今や必要不可欠とも言えるのが決算書を読み解く能力です。決算書には、企業の財務状態から業績、コスト構造に至るまで、様々な情報が詰め込まれています。
しかし、慣れない方にとって決算書というものはとっつきにくい存在。利益に関する数値だけでも複数ありますが、それぞれが何を意味しているのか分からない方も少なくありません。
今回の記事では、決算書を読むときのポイントについて分かりやすく解説します。本記事をわきにおいて実際の決算書を読んでみれば、財務分析の基礎知識も身につきます。ちょっとした読み物を読むようなつもりで、ぜひご一読ください。
全ての会社は、年に一回以上の決算書作成が義務付けられています。決算書とは、「一定期間の業績」や「特定時点における財務状態」を表すための書類です。
例えば「売上高」について、少し考えてみましょう。
仮に小さなフルーツサンド店を経営しているとします。あなたは毎日、卸売業者から食パンやフルーツ、生クリームを仕入れ、調理して販売します。フルーツサンドは1セット1,000円で売るとしましょう。
このフルーツサンドが5月1日に100セット売れたら、その日の売上は10万円。同じように、2024年の一年間で10万セット売れたら、その期間の売上高は1億円です。これが「一定期間の業績」に該当します。
それでは、「特定時点における財務状態」とはどのような場合でしょうか。
商売を始めるには、どこかから資金を調達しなくてはなりません。銀行から借りたり、投資家からの出資を受けたり。自分で貯めていた資金を活用するのも、立派な資金調達方法の一つです。
あなたは銀行から1,000万円を借りて、フルーツサンド店を始めることにしました。この1,000万円は、毎日商売を続ける中で、増えたり減ったりします。材料を仕入ったときには減り、商品が売れたら増える。これを繰り返しながら、うまくいけば少しずつ増えていくことになります。
毎日変わっていく「現金」がどのくらい残っているかを把握するには、特定時点の「残高」を見るしかありません。これが「特定時点における財務状態」。他にも商品の在庫や、借入金の残高なども同じように把握できます。
要するに決算書とは、用意したお金(資本)を事業活動に投じた結果、一定期間でどのような成果が得られたかを報告するものです。
会社を経営するときには、決算月を何月にするかを設定します。日本だと3月決算の会社が多いですが、アメリカでは12月決算が主流。6月決算の会社(例:メルカリ)もあれば、9月決算(例:Apple)、5月決算(例:Nike)の場合もあります。
「2024年6月期の売上高」といえば、2023年7月から2024年6月までの一年間における売上を合計することになります。財政状態の場合は決算期末、例えば「2024年6月末時点での現預金」が報告されます。
決算がどのようなものか、ざっくりとイメージできたでしょうか。続いて考えたいのが、決算書が存在する目的です。決算書があると、どのようなケースで役に立つでしょう?
再び、フルーツサンド屋さんを経営するケースを想像してみましょう。
フルーツサンド店を経営するには、最初に元手となる資金が必要でした。あなたは銀行から1,000万円を借り、調達したお金の一部を使って店舗の賃貸契約を結びます。
良いロケーションに店舗を借りることができたら、店舗を運営してくれるスタッフが必要ですね。スタッフを採用したら、働いてくれた時間に応じて時給を支払います。
日々きちんと帳簿をつけていれば、何にお金をかけ(人件費や賃貸料、原材料費)、どれだけフルーツサンドが売れたか(売上高)が集約できます。この帳簿をもとに決算書を作ったら、文字通り一年間の「総決算」が見られます。
この決算書、まずは何より経営者であるあなた自身が確認したいですよね。
売上高を費用が上回っていたら、商売を続けることができないかもしれません。コストを精査することで、利益を伸ばす方法を洗い出すこともできるでしょう。事業の一年間を振り返り、さらに改善するために役立ちます。
商売が上手くいったら利益が出ますから、儲けに応じて税金を支払わなくてはなりません。これを怠ると脱税になりますから大変です。法律を守るというためだけにも、決算書は(赤字の場合にも)きちんと作って申告する必要があります。
外部のステークホルダーに説明する場合にも決算書は必要です。
商売を広げるために銀行から借り入れをしようと思ったら、「3期分の決算書を見せてください」などと言われます。銀行は決算書の中で、健全な経営が行われているかを読み解くことができます。
投資家から資金を調達しようとするときも同様です。その会社にどのくらい資金が残っていて、どれくらい借金があるか。一年での稼ぎや、前年と比べてどう変化しているかが分かれば、今後の可能性についても予想しやすくなります。
つまるところ、決算書の目的は「会社の経営状況を把握するため」です。あなたが経営者なら業績改善の手立てを考えられますし、投資家であれば「その会社に投資するべきか否か」を検討できます。だからこそ、決算書を読み解く能力はビジネスパーソンの必須スキルなのです。
決算書は、正式には「財務諸表」と呼ばれることが多いです。その名の通り、「財務に関する諸々の表」ですが、通常は三つあるので「財務三表」と呼ばれることもあります。
財務三表は、「損益計算書」「貸借対照表(バランスシート)」「キャッシュフロー計算書」から構成されています。まずは損益計算書について、簡単に解説しましょう。一定期間における「損益」を計算するための書類です。
またまた、フルーツサンド店のケースを想像してみます。
今年度はフルーツサンドが無事に10万セット売れました。1セット1,000円なので、見事に1億円の売上高です。しかし当然、丸ごと1億円が儲かるわけではありません。
食パンが一斤あれば、フルーツサンドを4セット作れるとします。10万セットを売るためには2.5万斤の食パンが必要。仮に一斤あたり400円とすると、食パンの仕入額は1,000万円です。
仕入値が高そうなのはフルーツですよね。フルーツサンド1セットにフルーツ200円分が必要だとしましょう。10万セットのフルーツサンドを作るには、2,000万円の原価がかかることになります。
生クリームはホイップして使いますから、計算が難しそうです。レシピサイトをいくつか見たところ、食パン一斤に対して200ccの生クリームがあればなんとかなりそう。200ccの生クリーム(400円とします)が2.5万パックあればいいので、こちらも1,000万円必要になります。
実際には、業務用でもっと安く手に入るかもしれませんし、他の諸費用もかかってくることでしょう。今回のように単純化して考えた場合ではありますが、フルーツサンドを10万セット売るのにかかる原価は4,000万円。売上総利益として6,000万円を稼いだことになります。
当然ながら、この6,000万円も丸ごと「手残り」するわけではありません。ここでも単純化して、人件費と家賃だけがかかってくると考えましょう。
人件費は、時給1,200円のアルバイトが3人、8時間 x 30日働いたら、一年で1,000万円ほどになります。家賃も簡便のため、年間1,000万円ということにしておきましょう。
そうすると、人件費と家賃という「営業費用」を除いた利益額は、4,000万円。これがいわゆる「営業利益」です。日々の営業によって稼いだのが、これだけということですね。
さてさて、この4,000万円も丸ごと手残りはしません。一つのケースとして、元手の1,000万円を全額借り入れていた場合を考えましょう。利率が10%だとすると、あなたは年に100万円の金利を支払わなくてはなりません。
この金利は、事業の状況にかかわらず「経常的」に発生します。つまりは経常的費用というわけで、これを除いた「経常利益」は3,900万円。ここから仮に25%の税金を支払うとすると、最終的に残る「純利益」は2,925万円となります。
あなたのフルーツサンド店は、わずか1,000万円の資本金から2,925万円もの純利益を稼ぎました。とてつもないリターンですね。実際はこのようなケースはなかなかありませんが、あくまでイメージしやすいための例としてご理解いただけると幸いです。
ここまではあえて実際の決算書は見ずに、想像上のフルーツサンド店から損益計算書の「概念」について確認してきました。ここからは、実際の決算書を見ながら読み解いていきましょう。
その前に知っておきたいのが、決算書をどこで見られるかという点です。上場企業ならIRページに載っていますが、非上場企業では通常、見ることができません。ただし、例えば日本経済新聞社のように、公共性の高い巨大企業の場合は、決算短信などを開示しているケースがあります。
日本の場合、上場企業の決算書を見られる場所は主に二つです。「有価証券報告書」と「決算短信」ですね。この二つはどのように違うのでしょうか?
有価証券報告書とは、その名の通り「有価証券」の状況を報告するための資料です。担当しているのは「財務省」で、インターネット上のウェブサイトである『EDINET』から閲覧することができます。
有価証券報告書には、財務諸表だけでなく事業の内容、沿革、経営方針、大株主の状況などあらゆる情報が載っています。ある銘柄にまとまった金額を投資しようと思ったら、端から端までじっくりと読み込むことをオススメします。そのくらい重要な資料であり、本格的な株式投資のための土台と言えるものです。
一方の決算短信は、証券取引所の規定にもとづく開示資料です。決算短信を含む、投資家の判断に重要な影響を与える開示情報は「適時開示」と呼ばれ、適切な開示を行うことが義務付けられます。適時開示情報をインターネット上で見られる『TDnet』は、東京証券取引所が運営しています。
有価証券報告書は、決算短信よりも遅れて出てくることが多いです。例えば「任天堂」の場合、2023年3月期の決算短信は5月9日に公表。有価証券報告書は6月26日に提出されました。決算短信には一年のトレンドなどが載っていますが、情報量は少なめ。「短信」の名の通り、あくまで速報値という側面があります。
大変お待たせしました。今度こそ、実際の決算書について確認しましょう。
シンプルな会社の方が良いので、非連結の小売業として「セリア」を取り上げましょう。百円ショップを運営する大手チェーンの一角です。
Finboard
上のグラフは、セリアの有価証券報告書から売上高、経常利益を機械的に抽出したものです。弊社が運営する兄弟サイトの「Finboard」で見ることができます。
一目して分かるのは、売上高が伸びていること。経常利益については前年までは伸びていたものの、2023年3月期は減益となっていますね。この原因を知るために、有価証券報告書をチェックしてみましょう。
Finboardでは、各会社ページ下部に損益計算書などの数値を集積した表を掲載しています。これを見ただけでも主要数値の推移は分かりますが、数値(赤枠部分)をクリックすることで、原典を簡単に表示できます。
ここで一つ注意点。売上高、経常利益などの主要な数値は、有価証券報告書などの「主要な経営指標等の推移」としてサマリー形式で表示されます。あくまでも要約的な情報であり、損益計算書ではありません。
損益計算書を確認するには、営業利益の数値をクリックしてみましょう。すると、以下のように該当する数値が黄色く塗られた状態で表示されます。右下の「リンク」ボタンを押すと、実際の有価証券報告書を開くこともできます。
さて、ようやく本物の損益計算書にたどり着くことができました。上部に「損益計算書」と書いていますね。テーブルには「前事業年度」「当事業年度」という二つの列があり、「売上高」から「当期純利益」まで多くの行が並んでいます。
「前事業年度」には「2021年4月1日〜2022年3月31日」、「当事業年度」は「2022年4月1日〜2023年3月31日」と書いてありますね。セリアの一定期間の業績を示していることがわかります。
一番上にあるのが、「売上高」です。セリアの商品が、一体どれだけ売れたのかを示しています。百万円単位なので、2,123億円。全ての商品が100円というわけではありませんが、仮に100円だとすると、21億個もの商品が売れたことになります。ものすごい数であることは、間違いなさそうです。
その下に、「商品売上原価」があります。セリアの商品を作るのに、どれくらいのコストがかかったかを記載してあります。1,233億円なので、だいたい売上高の58%ほどかかっていますね。100円の商品なら、58円しか原価がかかっていないわけです。意外に収益性、高いですよね?
売上高から売上原価を引いたものが「売上総利益」。基本的には、その下からも引き算が続いていきます。
「販売費及び一般管理費」には、広告費や人件費、地代家賃などが書かれていますね。これら全てを合計したものが736億円ほど。売上総利益から引いて残った154億円が「営業利益」です。
営業利益は前年から50億円近く減っています。売上総利益はほとんど横ばいなので、「販売費及び一般管理費」に原因がありそうです。一つずつチェックしていくと、「地代家賃」が13億円近く増えています。「水道光熱費」も11億円ほど多くなっていることがわかります。
「分析」とは、物事をいくつかの要素に分け、その要素や構成などを細かい点まではっきりさせること。売上高や利益が増減していたら、このように損益計算書をつぶさに確認することで、業績改善・悪化の原因を分析できます。
地代家賃は、なぜ増えたのでしょうか。セリアは成長を続けていますから、新しく店舗を出したのかもしれません。有価証券報告書や決算短信に店舗数が載っていることもありますが、ここで決算説明資料を見ましょう。
Google検索で「セリア IR」と検索すると、セリアのIRページが出てきます。「IRライブラリー」に「決算説明資料」という項目があるのでクリックしてみましょう。
IRページの形式は企業によって様々ですが、大抵はセリアと同様です。「IRライブラリ」の中に決算短信、有価証券報告書、決算説明資料が含まれるのが一般的。企業によっては決算説明資料(スライド)がなかったり、年に二回だけ開示される場合もあります。
セリア
さて、決算説明資料では上のように、店舗数の推移グラフが見つかりました。やはり増えていますね。多くは直営店ですから、地代家賃も店舗を出すほどに増えていきます。
小売店は、店舗数を増やすほど売上高も伸びていきます。しかし、収益性を高めるためには店舗あたりの売上を高めるか、コスト構造を改善する必要があります。決算書の範疇からは外れるので詳細は割愛しますが、ここでチェックしたいのが「月次売上高」です。
セリア
セリアの場合は、2023年度に直営既存店売上が「101%」伸びています。元からあった店舗だけでも、売上が1%増えたわけです。客数は増えて、客単価は減っていますね。「なぜ客単価が下がった?」「客数を伸ばすどんな施策を打った?」と掘り下げていくと、事業についてさらに理解を深められます。
企業活動は、大きく三つの要素から成り立っています。必要な資本を集める「財務活動」、集めた資金を投下する「投資活動」、それから日々の「営業活動」です。
損益計算書が記すのは、このうち「営業活動」だけでしかありません。それでは、「財務活動」「投資活動」はどこに書かれているのでしょうか?
答えの一つが「貸借対照表」です。一般にバランスシートと呼ばれたり、企業によっては「財政状態報告書」と記載されていることもあります。早速、セリアの例を見てみましょう。
損益計算書よりも項目が多いので、面食らってしまう人もいるかもしれません。表が分かれているのは、単にページに入りきらないだけ。貸借対照表自体は、「資産の部」「負債の部」「純資産の部」という三つのエリアで構成されています。
ここで押さえておきたいのが、三つのエリアの関係性です。企業は「財務活動」によって資本を集め、「投資活動」で必要な設備などを獲得します。「負債の部」「純資産の部」は財務活動、「資産の部」は投資活動にそれぞれ対応しています。
驚くことに、セリアには「借入金」がありません。「負債の部」に書かれているのは「買掛金」「リース債務」など。負債は「いつか返さなければならないお金」。もしここに「借入金」が入っていたら、その企業は記載された金額を「借入金」によって調達したことになります。
一方の「純資産の部」を見ると、資本金と資本剰余金が合わせて27億円ほどありますね。これは、株式の発行という形で投資家から調達したもの。「利益剰余金」は、自ら事業によって生み出した利益を再投資する形で積み上がっていった資本です。
セリアの負債純資産合計は、約1,269億円。これだけの金額を、主に利益剰余金によって調達しています。これを一体何に投じているのかを記載したのが、「資本の部」です。
調達した資本を何にも投資しなければ、「現預金」(551億円)として積み上がっていきます。セリアの場合は、「有形固定資産」(233億円)も大きいですね。「投資その他の資産」には、「敷金及び保証金」(135億円)が大きいことも見て取れます。在庫(商品及び製品)も206億円ほどあります。
セリアは、とても事業がシンプルです。調達した資本の多くは在庫の仕入れや店舗の出店などに投じられ、これに関連して敷金などが積み上がっています。企業によっては、有価証券が多かったり、無形資産(ソフトウェアなど)が大きい場合もあります。
一定期間の成績を報告する損益計算書とは異なり、貸借対照表は過去の積み重ね。現預金を厚めに持っておきたい安定派か、積極的に借入を活用して成長させたいかと言った風に、経営者の考え方が顕著に表れます。
財務三表の三つ目は「キャッシュフロー計算書」。損益計算書、貸借対照表とも毛色が異なります。名前の通り、キャッシュフロー(現金の流れ)を表すための資料です。
「黒字倒産」という言葉があります。損益計算書上は黒字なのに、負債を返済できなくて倒産してしまうケースです。どうしてそんなことが起こるのでしょうか?
ここでも小売業のケースを想像してみましょう。あなたのフルーツサンド店が、猛烈な成長を続けています。あなたは2店舗目、3店舗目、...とどんどんお店を増やしていくことにしました。
元手(資本金)は1,000万円、新たな店舗を出す時に、設備投資や敷金に500万円が必要になるとしましょう。するとどうでしょう。わずか2店を追加するだけで、キャッシュフローがひっ迫してしまいます。
小売店の場合、売上の成長自体もキャッシュフローを圧迫します。その日のうちに現金を受け取れるなら良いですが、昨今ではキャッシュレスを受け付けている店舗も多いですね。今回のケースでは、販売(=売上計上)から入金までに一カ月のタイムラグがあるという場合を想像してみましょう。
2024年4月、見事に1万セットのフルーツサンドが売れました。売上高は1,000万円です。このお金が入金されるのは5月ですが、その間にもあなたは食パンやフルーツ、生クリームを仕入れなくてはなりません。店舗数を増やしたらどうでしょう?ますますキャッシュが足りなくなります。
「成長するほどキャッシュが足りなくなる」現象は、至るところにあります。製造業の場合でも、設備を増やそうと思ったら現金が必要です。アパレルの場合もそうですね。仮にアウトソーシングしている場合でも、売上の回収よりも仕入れでの支出が先になることが多いです。
米国最大の小売チェーンとして知られるウォルマートも、上場するまでは多くの借金を抱えていました。さすがにリスクが多すぎるということで、株式を上場。過度なレバレッジを解消・改善するために上場するというのが、従来は最も一般的なケースと言えます。
再びセリアのケースを見てみましょう。キャッシュフロー計算書は、営業活動、投資活動、財務活動の三つに分かれています。先述した企業活動の三分類に対応していますね。
キャッシュフロー計算書からは、一定期間内に企業が「どのように資金を集め(財務活動)」「集めた資金を投資し(投資活動)」「日々のオペレーションを行ったか(営業活動)」が現金の流れとして分かるのです。
もちろん、成熟した企業であれば資金を集める必要はありません。その場合は株主への利益還元などを行いますが、株主還元も財務活動の一部に含まれます。セリアの場合は、「自己株式の取得による支出」「配当金の支払額」という項目がありますね。これはどちらも株主への利益還元です。
投資活動によるキャッシュフローを見ると、「有形固定資産の取得」に46億円を投じています。セリアはこの期間に132店舗を出店していますから、単純計算で店舗あたり平均3,500万円ほどかかったことになります。
営業活動によるキャッシュフローは、税引前当期純利益から足し引きすることによって計算されています。これは、損益計算書上の利益には現金の移動を伴わない費用も計上されているためです。
代表的なのが「減価償却費」。セリアの場合も、45.9億円の減価償却費が足し戻されています。減価償却という概念は、決算書の読み方を理解する上で初心者が最初につまづくかもしれないポイントです。
再びフルーツサンド店のケースに戻りましょう。新たな店舗を出すのに500万円がかかります。今年は銀行借入も活用して、2店舗を出店しました。売上高は1億円、営業利益は4,000万円でした。
もしも出店費用が丸ごと費用計上できるとすると、今年の営業利益は3,000万円になります。しかし、翌年に出店しなければ利益は4,000万円に増えます。しかし、店舗を出すか出さないかは該当期間の「収益性」とは直接関係がありません。
そこで登場するのが、減価償却という考え方です。例えば、出店費用の500万円を(仮に)10年かけて「償却」するとします。毎年定額で償却していくとしたら、年間に計上するべき出店費用は50万円になります。こうすることで、店を出したか出していないかに関わらず、設備投資に関する費用を平準化することができます。
減価償却は、その事業が本来持つ収益力を算出するためには欠かせません。しかし、キャッシュフローの計算は別に必要です。キャッシュが減り続けていては企業は存続することができません。黒字倒産を防ぐためにも、投資家がそのリスクを測るためにも、キャッシュフロー計算書は役立つというわけです。
キャッシュフロー計算書には、その事業の特性がよく表れます。小売業の場合だと、店舗の出店や商品の仕入れなど、収入よりも支出が先行するケースがほとんどです。しかし中には、収入が先行するビジネスというのも存在します。
有名なのは、保険会社です。生命保険に入ったら、毎月の保険料は何もなくても支払いますよね。保険会社にとっては、何もサービスを提供しなくても、収入が入ってきます。保険金を支払うのは、対象者が万が一亡くなった場合だけですから、通常は随分先のことです。
これによって保険会社には、「フロート」と呼ばれる巨大な現金のカタマリができます。かの有名なウォーレン・バフェットは、保険ビジネスのこの点に注目して、投資手腕と組み合わせることで大成功しました。巨額のフロートを株式投資や企業買収に活用することで、会社を早く大きくしたのです。
今回の記事では、決算書の読み方について可能な限り詳しく紹介しました。決算書にはビジネスに関する色々な側面が詰まっており、知れば知るほど面白い世界です。実際に読んでいく中で分からないことがあったら、ぜひX(旧Twitter)などで質問してみてください。