(前編の続き)
Moshi Monstersというゲームが大ヒットを記録し、一世を風靡したアクトン・スミス。しかしデバイスシフトに対応できず一気に業績は落ち込み、従業員を200人も解雇しなければいけないと行った状況に。
Moshi Monstersの売上縮小と人員解雇はアクトン・スミスにとって大きな心理的負担になったのでした。
当時は眠れる夜も多く、頭痛にも悩まされていたとのこと。さらに過度のストレスから不安、うつ病、不眠症、ギャンブルなどを全てを経験することになってしまいました。
ハードシングスが続くアクトン・スミスですが、ここで後に彼の人生に大きく影響を与える"瞑想"に出会うことになったのです。
2012年、アストンスミスは、のちにCalmを共同創業することになる天才起業少年『アレックス・テュー』と出会います。
アレックスはイギリスのウィルトシャー出身。彼は2002年に高校を卒業後、ノッティンガム大学に入学することになります。
大学の経営学部に入学したアレックスは、学年が上がるにつれて自分が借りている学生ローンのことが心配に。そこで彼は、お金を稼ぐために特殊な"ホームページ"を作ることになります。
このホームページは後に世界的に有名になる『The Million Dollar Homepage(ミリオン・ダラー・ホームページ)』と呼ばれるもので、一言で言うとウェブ上の広告板のようなもの。
『ミリオン・ダラー・ホームページ』には1,000ピクセル×1,000ピクセルの"キャンバス"が設けられ、10×10ピクセルを最小単位として1ピクセルあたり1ドルという価格でスペースを購入可能。購入するとそのスペースの権利を永久に保有することができます。
ちなみに購入者はスペースを保有できるため、そのスペースには広告としてURLを添付することができるようになっています。
2005年8月末にローンチされたミリオン・ダラー・ホームページは当初、知人の間だけでスタート。そして1,000ドルの売り上げを達成した時点で、メディア各社からプレスリリースが発表。
イギリスのBBCもミリオン・ダラー・ホームページを取り上げたこともあり、一気にホームページを訪れる人は増加しました。
そしてリリースから4ヶ月後の2005年10月には、合計100万ピクセルのうち99万9000ピクセルが完売してしまったのです。
さらに2006年には全てのピクセルが完売し、アレックスはサイト名"ミリオン・ダラー"の通り"100万ドル"を手にしたのでした。
富と名声を手に入れたアレックスは、すぐに大学を中退しロンドンに移住することになります。
たった4ヶ月足らずで億万長者になった大学生を世間がチヤホヤしないはずがありません。彼はその後、さまざまなメディアに取り上げられることになります。しかしこの成功は彼によってあまりいい影響を与えませんでした。
彼はこの成功によって顧客に価値を提供するアイデアより、"注目"を集めるアイデアに固執してしまうようになってしまったのです。
ミリオン・ダラー・ホームページで成功を収めた後、2006年から2010年の間も、彼は複数のベンチャー(Pixelotto、OneMillionPeople、PopJam)を創業しますが、全て失敗。アレックスは精神的に病んでしまい、結局サンフランシスコに逃避することになってしまうのです。
Calmを共同創業することになる『アクトン・スミス』と『アレックス』の2人はともにイギリス出身で、2人は2006年に出会っています。アレックスとアクトン・スミスは会って早速意気投合し、その後ハウスメイトになったとのこと。
出会った後、アクトン・スミスはMoshi Monsterの業績が低迷。アレックスは次のサービスがヒットしないといった状況になり、2人ともうつ病気味に。
そして、ストレスフルな日々を送る2人が興味を持ったのが"瞑想"だったのです。
アクトン・スミスは、2014年にうつ病気味になってしまい、仕事を一旦離脱。一人でオーストリアのホテルへの休暇を取ることになりました。
そこでアクトン・スミスはテニス、ランニングなどをする傍で、マインドフルネスの本について読了。当時マインドフルネスに対していかがわしい印象を持っていたアクトン・スミスですが、実際に書物を読んでマインドフルネスを実践してみると集中力に向上に一定の効果があることを発見。
この体験をきっかけにアクトン・スミスとアレックスはCalm.comというドメインを確保。具体的な方向性については決まっていなかった一方で、人をなだめたりリラックスさせるようなプロダクトを作ることが決定したのでした。
2012年に創業された『Calm』ですが、実はアクトン・スミスがまだイギリスで会社をやっていた影響で、数年間はお互いリモートでCalmを運営。
しかし2016年、ついにアクトン・スミスは自分の会社『Mind Candy』を引き継ぐ新CEOを抜擢。これによりアクトン・スミスはサンフランシスコに移住し、Calmに専念することが可能になったのでした。
2016年上半期から本格的にスタートしたCalmですが、当時は銀行にたった数千ドルの資金しか残っておらず、投資家から資金調達をする必要がありました。
そこで2人は投資家をまわるのですが、数十回ものピッチで全て投資を断られてしまいます。ただの瞑想アプリがユニコーン企業になるなんて、当時は誰も想像できなかったのでしょう。
彼らは出資を断られすぎで、『自分たちのプロダクトに疑心暗鬼になっていた』と語っているほどです。
さらに断られるだけでなく、投資家からは『馬鹿げている』『ふわふわした小さな瞑想アプリ』と陰口を呼ばれる始末でした。
資金調達に苦労したCalmは、結果的に利益を出し続けながら成長するしかなく、資金調達ありきの会社経営は無理と判断。
Calmは事業開始から従業員を10人以下にし、人件費を抑制。オフィスはサンフランシスコの狭いアパート(1ベッド)で、極限までコストを削減して運営されたのです。当時は狭いアパートに従業員9人がおり、全ての支出を敏感にチェックしていたとのこと。
資金調達すらままならなかったCalmですが、2016年初頭にアプリが大ヒット。アプリに関しては2017年に"iPhone App of the Year"に選ばれるほどでした。
特にユーザーに響いたのが『Sleep Stories』という機能。Sleep Storiesでは、ユーザーがリラックスして睡眠できるように最適な音楽を選択してくれ、現在は200万人がSleep Storiesを使用。2019年8月時点でおよそ1.5億回も再生されているとのこと。
現在、Calmは初心者から上級者向けに瞑想コンテンツを作成。瞑想に関するガイドから音楽までサブスクリプション(年間69.99ドル)で提供しており、呼吸方法などの学習から睡眠時に適した音楽までアプリから聴くことが可能となっています。
プロダクトローンチ時は資金調達に苦労していたCalmですが、2019年2月にシリーズBラウンドで8,800万ドルの資金調達を実施。評価額10億ドルに到達し、一気にユニコーン企業へと駆け上がりました。
現在、Calmの累計アプリダウンロード数は4,000万、有料ユーザーは100万人を突破。2018年の通期売上は1.5億ドルを記録しています。
さらに現在アメリカではマインドフルネスブーム。2012年には4.1%だったアメリカのマインドフルネス人口(成人)が、2017年には14%に上昇。市場の追い風を受けているといった状況です。
アメリカ人の4人に1人が不眠症と言われる中、Calmが今後どのようにアメリカ人のメンタルヘルス問題を解決し、成長していくのか非常に注目です。
参照
Calm’s Michael Acton Smith has come to Hollywood to put audiences to sleep
Michael Acton Smith: From Moshi to Mindfulness
Tech Wunderkind Michael Acton Smith Tells All About His Wellness App Calm
Calm Is Sleeping Its Way to Success
Meditation app Calm hits a $250M valuation amid an explosion of interest in mindfulness apps
This Meditation Startup Is Turning Stress Into Profits
Career Life Stories: Michael Acton Smith, Co-Founder & Co-CEO, Calm
https://www.robertwalters.co/blog/michael-acton-smith-co-founder-calm.html
British start-up Calm becomes the first 'mindfulness' company to be worth $1bn
Co-founder and Co-CEO of Calm.
How the Million Dollar Homepage kid became the $250m app man